個人で音声ロールプレイのプラットフォーム(kotonia)を作っている。多言語の高品質TTSにリップシンクアバターを乗せて、キャラと“会話”できるやつだ。技術スタックはそこそこ尖っているつもりで、画像も音声も動画もローカルGPUで回している。
キャラの立ち絵は自前のクリエイティブスタジオで生成している。1体増やすコストが実質ゼロなのが、個人でこのカテゴリと戦える前提になっている。
で、ある日まとまった時間を取って、新機能を一つも作らなかった。代わりに、初回ユーザーが価値に辿り着く前に消えていく「静かな穴」を、ひたすら塞いだ。今日はその記録。派手さはゼロだが、たぶんここ最近で一番コンバージョンに効く1日だった。
器はできていた。でも導線が穴だらけだった
機能は揃っていた。キャラもいる、声も出る、アバターも喋る。なのに新規ユーザーの初動を観察すると、「使える状態」に至る前に離脱している。問題は機能の不足じゃなく、機能と機能の“あいだ”にあった。具体的に4つ潰した。
Fix 1:意図を保持する認証(動画目的なら動画へ、チャット目的ならチャットへ)
一番効いたのはこれ。
ユーザーは目的を持ってクリックする。「動画を作りたい」「このキャラと話したい」。なのに未ログインだと、ログイン/登録を挟んだ瞬間にその意図が消えて、全員が同じ固定ページに着地していた。しかもその着地先が、3つの導線(メール登録・メールログイン・Googleログイン)でバラバラ。片方は旧式のAIチャット、片方は謎のコード実行画面。誰の意図にも合っていない。
直し方は2層。
- 意図がある場合:「次に行きたい場所」を
nextパラメータとして認証フロー越しに持ち回す。動画機能のリンクを踏んだ未ログインユーザーは、そのままnext=/video-studioを付けてログインへ送られ、認証後に動画へ戻る。Googleログインのボタンがnextを転送し忘れていたバグも潰した(意図が毎回ここで蒸発していた)。 - 意図が無い場合:フォールバックの着地先を、3導線すべてキャラチャットのハブに統一。ただしこれは「固定の死んだページ」ではない。そのページは最後に話していたキャラを自動で復元する——既存ユーザーは続きから、新規ユーザーはデフォルトキャラのオープニングから始まる。
結果、「動画作りたくて来た人は動画へ、チャットしたい人はチャット(しかも前のキャラ込みで)」が、メールでもGoogleでも、どの入り口からでも揃った。
教訓:認証は“割り込み”であって“目的地”じゃない。割り込んだなら、元いた場所に戻すのが礼儀。
Fix 2:登録した直後に、もう一度ログインさせていた
登録フォームで名前・メール・パスワードを入れた直後に、ログイン画面へ飛ばして同じメールとパスワードを再入力させていた。バックエンドが登録時にセッションを張っていなかったからだ。
これは典型的な離脱ポイント。せっかく一番面倒なフォームを越えた瞬間に、もう一回壁を立てている。直して、登録成功後にそのまま自動ログイン→キャラチャットへ直行させた。新規ユーザーは登録した瞬間に、デフォルトキャラの“最初のひとこと”に出会う。第一印象が「再入力」から「キャラの挨拶」に変わった。
登録した瞬間にこの画面。「もう一度ログインして」ではなく、世界観のナレーションとキャラの“最初のひとこと”、そして「何を返せばいいか」の選択肢3つが出迎える。男女2体のデフォルトキャラを用意していて、初回は迷わず話し始められる。
Fix 3:UIが“嘘”をついていた(マイクの見た目と実態のズレ)
会話開始時、サジェストの選択肢を押してスタートすると、マイクボタンの見た目は「起動中」に見えるのに、実際にはマイク(VAD)が起動していなかった。送信後の状態遷移でボタンがアクティブ表示になる一方、セッション自体は始まっていない——見た目と実態が食い違っていた。
ユーザーは「喋れば反応するはず」と思って黙る。でもマイクは聞いていない。沈黙。離脱。直して、選択肢やテキストで会話を始めたときも、ちゃんとマイクを起動して見た目と一致させた。
教訓:UIが嘘をつくと、ユーザーは自分のせいだと思って去る。一番タチが悪い種類のバグ。
Fix 4:キャラを切り替えても、前のキャラの画像が残っていた
キャラを切り替えたとき、メディア(立ち絵)のクリア漏れで、前のキャラの画像が残り続けることがあった。新しいキャラと話しているのに、画面には別人。没入を即座に壊す。切替時にちゃんとクリアし、かつ「公開キャラのメディアは誰でも見られる」共有スコープに直して、選んだキャラ本人がちゃんと映るようにした。
通底する思想:bottleneck は、たいてい地味なところにある
派手な新機能はドーパミンが出る。作っていて気持ちいいし、進捗“感”がある。でも、ユーザーが離脱しているのは機能の不足じゃなく、導線の穴であることが多い。
そしてエンジニアには、その穴より「もっと機能を磨く」方へ引っ張られる重力がある。器を磨くのは得意で、快適で、即フィードバックがあるからだ。今回あえて新機能をゼロにしたのは、その重力に逆らうためでもあった。
地味なFixの共通点は、どれも**「ユーザーが自分のせいだと感じて静かに去る」**タイプの摩擦だったこと。再入力させられる、押したのに反応しない、別人が映る、目的地に着かない。声を上げてくれない離脱。だからこそ、自分で観察して潰すしかない。
その先にある、本当のボトルネック
正直に書くと、ここまでやってもこれだけでは事業は伸びない。
導線(器)を磨くのは「入ってきた人を逃さない」必要条件であって、十分条件じゃない。本丸は流入——蛇口はまだ閉じている。個人BtoCの companion/roleplay は、プロダクトの良さよりも、流入とコミュニティで勝敗が決まるカテゴリだ。ここに魔法は無い。地道に記事を書き、SNSを回し、動画を撃つ。複利で効いてくるのを待つ。
ただ、母数が小さい今のフェーズには、小さいなりの戦い方がある。数件しか来ないなら、定量(A/B・ファネル統計)はノイズで、定性が勝つ。来てくれた一人ひとりに、なぜ去ったかを直接聞く方が、どんなダッシュボードより学べる。そして観客がいない今は、最も自由に尖れる時期でもある。失うブランドが無いうちに、楔を一つ見つける。
手数と、感性と、設計と、技術と、人格。持っているもの全部が同時に試される総合格闘技みたいで、しんどいけど面白い。器はできた。ここからは外に向かって撃つフェーズだ。
kotonia はこちら。登録すると、最初の一歩でデフォルトキャラの挨拶に出会えます(今回の Fix の成果です)。
